ご 挨 拶

 三島由紀夫文学館は、三島家に保管されていた大量の資料を、山梨県山中湖村が一括して購入し、「三島文学の研究と普及」のためにつくられた文学ミュージアムです。三島夫人・瑤子さんの遺志を受け継ぎ、1999年(平成11年)に開館しました。

 大量の資料は、これまで題名さえ知られていなかった未発表作品を含み、原稿、創作ノート、執筆資料、メモなどの貴重なものばかりでした。三島由紀夫本人に関する資料、例えば学習院時代の成績表や応召の際の遺書、川端康成との往復書簡の写しなどもありました。未発表作品は厳密に整理し、『決定版三島由紀夫全集』(新潮社)に収録することができました。

 その間、新たな資料の発見もあり、また関係者からの寄贈もあって、三島由紀夫文学館は、今や愛読者、愛好家、研究者のいわば聖地となっています。

 その発展を支えた佐伯彰一、松本徹の2代の館長の後を、2017年(平成29年)4月に私が引き継ぎました。私は、大学教員として長く三島研究に携わり、そのかたわら文学館開設以前から資料整理や開館準備を手伝い、開館後は研究員として運営をサポートしてきました。

 今後は、「三島文学の研究と普及」という館の目的を継承し、それをさらに充実させたいと考えております。研究者や愛好者や出版関係者には、徹底した資料管理のもとに円滑な閲覧の便宜を図ります。三島文学のファンには、山中湖に来なければ見られない貴重な資料をわかりやすく展観したいと思います。

 そして何よりも力を注ぎたいのが、これから三島作品を読もうとしている方々に、三島文学の魅力を伝えるためのアイディアと工夫を凝らした紹介です。

 三島文学には、まだまだ汲み尽くせない人間の深淵や軽やかなユーモア、鋭い歴史観、重厚な世界観があります。それらは、すぐれた古典たりうる芸術要素であるとともに、私たちの未来を切り開く知恵の宝庫です。

 春から夏にかけては野鳥がさえずり、爽やかな風が緑の梢を流れます。秋から冬にかけては鮮やかな紅葉が目を楽しませ、落ち葉の散り敷く静かで落ち着いたたたずまいを現します。「山中湖文学の森」に建つ三島由紀夫文学館は、多くの方々のご来館をお待ちしております。

三島由紀夫文学館館長 佐藤 秀明

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